シンガポールの空港でeSIM購入は注意、日本からの国際ローミングが手軽
世界各都市でのプリペイドeSIM購入体験記、第2回はシンガポールです。今回は2023年6月上旬に訪問し、観光と展示会取材を行いました。しかし空港でeSIMを買おうとしたところ思わぬ問題に直面、空港での購入は断念せざるを得ませんでした。市内でeSIMは買えたものの、シンガポールを訪問するときは注意が必要です。なお今回もスマートフォンは日本で購入したiPhone 12 miniを使います。
目次
①シンガポールの空港でプリペイドSIMカードを買ってはいけない理由
シンガポールには4つのキャリアがあり、それぞれがプリペイドSIMカードを販売しています。ただしeSIMのプリペイドはどうやら1社で、他のキャリアはポストペイド契約回線でしかeSIMを提供していないようです。ちなみにシンガポールのキャリアは以下の4社。このうちM1がプリペイドeSIMを販売しています。
- ・Singtel
- ・StarHub
- ・M1
- ・SIMBA
各社のWEBページによると、旅行者向けのプリペイドSIMカードが安価に販売されています。たとえばSingtelならば4G / 15GB / 28日間有効で15シンガポールドル、訪問時の為替レートは104だったので約1560円です。今回購入予定としたのはM1が販売する4G / 100GB 15日間有効のプリペイドeSIMで、12シンガポールドル(約1300円)。なおプリペイドのeSIMはこの12シンガポールドルのものだけになります。
筆者が過去にシンガポールを訪問したときは、空港の両替所などでこれらの安価なプリペイドSIMカードが購入できました。今回もシンガポールのチャンギ国際空港、ターミナル1に到着して、さっそくM1のeSIMを買う予定でした。しかし到着したのは朝6時で、M1の看板を掲げた店に行くとまだ開店していませんでした。そこで他にあるプリペイドSIMカードを販売しているお店を尋ねてみました。ところがとんでもない状況だったのです。
プリペイドSIMカードの販売カウンターは観光案内所も兼ねているようでした。店頭には「120GB 5G Data」と便利そうなSIMの案内があります。話を聞くとここではM1の取り扱いは無し。販売しているものはSingtelの物理SIMカードで、5G / 120GBに加え90分の国際電話とアジア数か国のデータローミング10GB込みというプランです。
このプリペイドSIMカードはSingtelのWEBでは50シンガポールドル(約5300円)と案内されています。長期滞在ならともかく、今回のように数日の滞在ではちょっと割高です。ところがカウンターで販売価格を聞くと70シンガポールドル(約7400円)。なんと定価に20シンガポールドル(約2100円)も割り増しして販売されているのです。他にも4G / 100GBのプリペイドSIMカードも販売していましたが、こちらも定価30シンガポールドルに対して販売価格は50シンガポールドルで、やはり20シンガポールの上乗せです。
ここで過去を思い出し両替所行ってみると、M1のプリペイドSiMカードを販売しているところがありました。ただしeSIMの取り扱いは無し。価格も4G / 56GB / 25シンガポールドル(約2600円)のものが最低価格でした。なおこちらのSIMは市内のM1のショップでの定価は12シンガポールドルです。両替所のSIMは安価なものがあるとはいえ、なんだか朝からすっきりしない気分になってしまいました。
その後他の観光案内所のようなところへ行ってみると、StarHubやM1のプリペイドSIMカードはやはり定価に20シンガポールドルの上乗せ。M1のeSIMもありましたが100GBで50sシンガポールドルと、Singtel同様に高価。両替所はSingtel、StarHub、M1ともに安価なものも販売していますが、シンガポール・チャンギ空港ではプリペイドSIMカードの購入はあまりお勧めできないのが実情です。
ところでシンガポールではコンビニでもプリペイドSIMカードを売っており、ここターミナル1の地下にもセブンイレブンが朝7時くらいから営業しているようでした。しかしこの時はその存在に気が付かず、市内へ出るためにターミナル間連絡鉄道「Skytrain」に乗ってターミナル3へ移動してしまいました。ここには地元のコンビニがあるので店をのぞいてみたところ、Singtelの15シンガポールドルの低価格プリペイドSIMカードなどが定価で販売されていました。ただここでもM1のeSIMは販売されておらず、安価なeSIMを買うなら市内のM1の店舗に行かなくてはならないようです。
②繁華街のキャリアの店舗でeSIMを購入
シンガポールの市内にはM1の店が何か所かありますが、今回訪問したのは繁華街であるブギスにあるショッピングモール「Bugis Junction」の店舗です。開店時間は11時で、空港で時間調整をして向かい到着したのは11:30でした。平日午前中でも来客の数は多く、プリペイドのeSIMを買いに来たことを伝えて整理番号をもらいます。15分ほど待って番号が呼ばれたので、買いに来る場合は開店時間と同時のほうが待たずに済むかもしれません。
カウンターでは12シンガポールドルの旅行者用プリペイドeSIMが欲しいことを再度伝え、パスポートを渡します。スタッフはてきぱきと登録を進め、支払いはクレジットカード。最後にeSIMを手渡してくれますが「こちらで設定しますか?」と言われたので、今回は自分でやると伝えて一旦ホテルに戻りました。なお登録した日が開通日となり、本日から15日間利用できます。
プリペイドeSIMのパッケージを開けると、中には説明書とQRコードの印刷された名刺大の紙が入っています。eSIMの設定にはインターネット通信が必要なので、ホテルのWi-Fiに接続します。あとは日本でeSIMを追加するのと同じです。iPhoneの設定画面で「モバイル通信 / eSIMを追加」→「モバイル通信を設定 / QRコードを使用」とタップします。
そしてカメラが起動するので、台紙のQRコードを読み取ります。すぐにeSIMのアクティベート画面となり、しばらくするとモバイル通信設定完了の画面が表示され完了します。なお別のeSIMが先に入っている場合は念のため今登録したeSIMが標準になっているか設定画面で確認したほうがいいでしょう。基本的にはこのまま設定した新しいeSIMが使えるはずです。
③シンガポールの街中でeSIMを使ってみた
ホテルの部屋でさっそく速度を計測してみたところ、下り約87Mbps、上り約45Mbpsと十分な速度でした。残念ながら5Gには対応していませんが、この速度で一般的な使い方なら不満を感じることもないでしょう。また100GBあるので動画をしばらく流しっぱなしにしてもすぐに残量が無くなってしまうこともありません。
シンガポールも地下鉄(MRT)がかなり発達しているので、移動はほぼ電車をつかいました。地上をちょっと歩ける距離でも6月のシンガポールはすでに夏で、5分も歩くと大汗をかいてしまいます。その点、冷房が強い地下鉄は快適です。なお地下鉄やバスの乗車はApple PayやGoogle Payを使ったスマートフォンにも対応。またVisa、マスターカードのタッチ決済に対応したので、ICカード「Ez-linkカード」を買う必要はなくなりました。ただし海外のクレジットカードを使うと1日あたり0.6シンガポールドル(約60円)の手数料がかかります。
シンガポール名所と言えばマーライオン。ここだけは地下鉄の駅からやや遠く、バスでのアクセスのほうが楽でした。何度も来るところでもないかもしれませんが、今回は久しぶりなので記念撮影がてら訪問しました。
街中でのeSIMの使い勝手ですが、おおむね50から250Mbps程度。地下鉄の中で250Mbps以上出たのは驚きでしたが、車内が空いていて使う人がそれほど多くないからかもしれません。
一方、夜のチャイナタウンを訪れたところかなりの観光客がおり、夕食のレストランを探すのも一苦労。駅を出たあたりでは30Mbpsと混在しているのかやや低速でした。とはいえデータ通信が詰まるようなことも無く検索やSNSは問題なく使えます。
④日本からのローミングとどちらが便利か
シンガポールには4日間滞在、100GBあれば十分足りました。通信速度もそれなりに速かったので、展示会取材中に現地からライブ配信を行えばよかったかな、と思ったくらいです。しかし空港でのプリペイドSIMカードの買いにくさは大きな問題です。今回は街中に出てプリペイドeSIMを買うことができましたが、旅行者用のeSIMをシンガポールで買うには3つの問題があります。
- ・空港から市内の店まで移動しなくてはならない
- ・店舗の営業時間は11時から21時
- ・店舗では待たされることもある
シンガポールは小さな都市ですから移動しやすいとはいえ、観光の計画を立てている中でわざわざ市内のM1の店舗へ行くのも面倒なもの。今回の筆者のように早朝に空港に着いた場合、開店時間まで時間をつぶす必要もあります。
ドコモ、au、ソフトバンク、楽天ユーザーの人は、素直に日本からの国際ローミングサービスを使ったほうがシンガポールでは手軽かもしれません。ちなみにドコモの世界そのままギガは、24時間980円、2日間1780円、3日間2480円です。またahamoは最大20GBを15日間、2980円の基本料金で利用できます。
今回筆者の買ったM1のプリペイドeSIMの購入をお勧めできるのは、滞在が5日間などやや長い場合や、大量にデータ通信を外出中に行う予定のある人でしょう。またeSIMではなく物理SIMカード(nano SIMカードなど)を買うのであれば、空港のコンビニで買うことができます。本来eSIMは物理的なカードが必要なく手軽に購入できるものなのに、シンガポールではまだまだ買いにくい情況でした。
⑤まとめ。シンガポールでeSIMを買うのは面倒
シンガポールで海外からの渡航客が買えるeSIMはM1の1種類しかなかったことからわかるように、まだまだeSIMを外国人に販売しようとはキャリアのほうで考えていないのでしょう。しかし観光国でもあるシンガポールの表玄関で、外国人向けのプリペイドSIMカードが高値で販売されているのは納得いかないところ。空港のコンビニでQRコードだけのeSIM販売をぜひ開始してほしいものです。
香港在住の携帯電話研究家。海外(特に中国)のスマートフォンや通信事情に精通。IoT、スマートシティー、MaaS、インダストリアルデザインなど活動の幅は広い。最新機種のみならずジャンク品から百万円のラグジュアリーモデルまであらゆる携帯電話・スマートフォンを購入する収集家でもあり、その数はまもなく1800台に達する。