eSIMの利便性とは裏腹に表面化した課題も
オンラインを通じて契約して即利用できたり、端末の移行(機種変更)もアプリ上の操作だけで簡単にできたりと、eSIMの利便性は計り知れないのですが、一方でこの利便性が盲点となった事件やトラブルも発生しているようです。
目次
①他人のID、パスワードを使ってスマホを乗っ取り
さる9月28日、他人の楽天ポイントを使って商品騙し取ったブラジル人の男が逮捕されたという事件が報道されました。
「“eSIM”書き換えスマホごと乗っ取る…他人の楽天ポイント使って商品騙し取ったか ブラジル人の男逮捕」
https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20230928_30293
手口としては、偽の通販サイトを使ってフィッシング詐欺に引っかかった女性の個人情報(楽天のID、パスワードと思われます)を利用し、eSIMを書き換えて女性のスマホごと乗っ取って(以上の表現は報道のママ)、他人の楽天ポイントを使ったというのです。
容疑は「他人の楽天ポイントを使って商品をだまし取った」というものですが、ID、パスワードがあれば他人のスマホの契約内容そのものを自身のスマホに移せてしまうというのはeSIMの盲点かもしれません。自身が知らない間に、勝手に機種変更されて他人に利用されてしまうのです。
楽天のID、パスワードで「スマホごと乗っ取った」ということは、回線契約も楽天モバイルではなかったかと思われます。楽天モバイルのサービス利用においては、ID、パスワード等は楽天の各種サービスと共通のものが利用されています。
また、楽天モバイルは専用アプリから無料で簡単にeSIMの再発行が可能です。しかも、移行先(機種変更先)となるスマホのみでもeSIMの再発行が可能なのです。6月1日に筆者が公開したこちらの記事「楽天モバイルのeSIMを他の端末に移す(機種変更)」をご覧いただければわかる通り、楽天モバイルのeSIM移行は簡単で便利な一方で、今回のこの事件につながるような盲点があったというのは残念です。
こうした事件を機に、今後eSIM再発行の手順見直しなども行われるかもしれません。
②iPhoneでは物理SIMをeSIM化できるが…
iOS 16以降を搭載したiPhoneでは、iPhoneにインストールしているeSIMを近くにある別のiPhoneに転送できる「eSIMクイック転送」機能が利用できます。これを使えば、通信キャリアにeSIMの再発行を申し込むことなく、きわめて簡単にeSIMを別のiPhoneに転送して利用することができます(ソフトバンク、ワイモバイル、LINEMOの場合はiOS 17以降)。
また、eSIMの転送だけでなく、同じiPhone上で物理SIMをeSIMに変換する機能も備えています。通信キャリアを通じて物理SIMをeSIMに切り替える際には、場合によっては身分証明書の確認など色々な手間がかかりましたが、iOSの「eSIMクイック転送」を使うことでこうした手続きなしに簡単にeSIMへの切り替えが可能です。
しかし、ユーザーのほうでeSIMについての知識がなかったり、この機能の使い方の理解が不十分のまま、iPhone機種変更時の初期設定の際に誤って物理SIMからeSIMに切り替えてしまう事案が増えているようです。
NTTドコモは9月24日、「iPhoneご購入後の初期設定について」というタイトルで、iPhoneの初期セットアップ時の「モバイル通信の設定」の操作における注意を呼びかけています。
iPhoneの初期設定の際にiPhoneに表示される画面に従った手順に則って進めていくと、物理SIMが無効となり、eSIMでの通信に切り替わってしまいます。このため、物理SIMを引き続き利用する場合には、初期設定の最初の画面で、画面下部に出てくる「あとで“設定”でセットアップ」を選択する必要があります。
なおNTTドコモでは、この操作で誤ってeSIMに切り替えてしまったユーザーが引き続き物理SIMで利用したい場合はドコモオンラインショップに契約者本人から連絡するよう案内しています。
NTTドコモ「iPhoneご購入後の初期設定について」
https://onlineshop.smt.docomo.ne.jp/information/notice/20230924_01.html
③まとめ
便利なeSIMですが、一方でeSIMについて正しい知識が不足すると、トラブルになってしまう事例も増えているようです。何より重要なことは、ID、パスワードの管理を怠ると回線契約そのものが乗っ取られてしまう懸念があるということです。契約をめぐる各種IDやパスワードは慎重に管理したいですね。
また次々に発売されるスマホの大半の機種がeSIMに対応する時代となりました。1台のスマホに複数の回線契約(SIM)を入れて利用するユーザーも増えていると思います。そうした使い方をする場合、iPhoneもそうですがスマホの機種によっては物理SIMとeSIMの同時利用により2回線利用を可能としている機種も少なくありません。従って、ご自身の回線契約のうち物理SIMで利用するものとeSIMで利用するものを使い分けていく必要も生じます。
iOSの「eSIMクイック転送」を使って簡単に物理SIMからeSIMへ切り替えることが可能になりましたが、eSIM化すべきかどうかしっかり考えてこの機能を使うべきとも思いました。
名桜大学人間健康学部健康情報学科教授。’90年代から携帯電話端末のレビューやサービスの解説を行ってきた。携帯電話情報サイトの編集長などを務めた後、2009年に大学教員に転身。以後スマートフォンの社会での活用などを研究テーマとして活躍。現在は医療・ヘルスケア分野へのデジタルデバイスの応用を中心に研究に従事。携帯電話コレクターとしても知られる。